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Google Cloud Next ’25 基調講演で語られた事
ラスベガスで開催された「Google Cloud Next ’25」のオープニング基調講演では、AIが組織やビジネスにもたらす変革、そしてGoogle Cloudが提供する「新しいクラウドの形」が鮮やかに提示されました。Google Cloud CEOのThomas Kurian氏とGoogleおよびAlphabet CEOのSundar Pichai氏が登壇し、この1年間の飛躍的な進歩と、未来に向けたGoogleの揺るぎないコミットメントが語られました。
AIインフラへの巨額投資と「Googleスピード」の追求
Google Cloudは、AIの未来を牽引するために、インフラへの大規模な投資を計画しています。Sundar Pichai氏は、2025年までに総額約750億ドルを設備投資に充てると発表し、この投資がAIコンピューティングとクラウドビジネスの強化、ひいては顧客への大きな利益につながると強調しました。Googleは、数十億人のユーザー向けにSearch、Gmail、Photosなどのサービスをほぼゼロレイテンシーでサポートするために、インフラを「Googleスピード」で動かす必要があると述べています。
この投資の一環として、以下の革新的な発表がありました。
Cloud Wide Area Network (WAN) の一般提供: Googleが誇る200万マイル以上におよぶグローバルプライベートネットワークが企業向けに提供されます。これはアプリケーション性能を40%以上高速化し、総所有コストを最大40%削減する可能性を秘めており、Citadel SecuritiesやNestléといった企業がすでに活用しています。
• 第7世代TPU「Ironwood」の登場: Google史上最もパワフルなAIチップである「Ironwood」が年内に登場します。初代公開TPUと比較して3600倍もの性能向上と29倍のエネルギー効率を実現し、Gemini 2.5のような要求の厳しい「思考モデル」の需要に応えるため、1ポッドあたり9,000個以上のチップを搭載し、42.5エクサフロップスという驚異的な計算能力を提供します。これは世界最高のスーパーコンピューターの24倍以上のパワーに相当します。
• AI Hypercomputerの強化: ハードウェアとソフトウェアを統合したスーパーコンピューティングシステム「AI Hypercomputer」は、AIワークロードの展開を簡素化し、性能を向上させ、コストを最適化するように設計されています。
• NVIDIAとの強力なパートナーシップ: NVIDIAのGB200およびB200 Blackwell GPUを搭載したA4XおよびA4 VMを提供し、次世代Vera Rubin GPUも提供予定です。NVIDIAのJensen Huang CEOも登壇し、Googleとの「スーパーパートナーシップ」がAIインフラのあらゆる層をカバーすると述べました。
• ストレージの革新: AIトレーニングと推論におけるボトルネックを解消するため、Hyperdisk Exopols、Cache、Rapid Storageといった新しいストレージソリューションが導入されます。
Geminiモデルの進化:思考するAIと広がる活用領域
GoogleのAI研究チームは過去10年間、AIの限界を押し広げてきました。その最前線にあるのが、Googleの最も高性能なAIモデルファミリーである「Gemini」です。
• Gemini 2.5のリリース: 数週間前にリリースされた「Gemini 2.5」は、**応答する前に思考する能力(thinking)**を搭載した、Google史上最もインテリジェントなAIモデルです。Rubik’s Cubeのシミュレーションや、地球の磁場や一般相対性理論のような複雑な物理シミュレーションをインタラクティブなビジュアルに変換する能力がデモされました。Gemini 2.5 Proは、現在AI Studio、Vertex AI、Geminiアプリで利用可能です。
• Gemini 2.5 Flashの発表: 低レイテンシでコスト効率の高いモデルでありながら、思考機能を内蔵しています。
• WorkspaceでのGemini活用: Gmail、Docs、Drive、MeetといったGoogle Workspace製品にGeminiが統合され、すべてのサブスクリプションに含まれるようになりました。これにより、Google Sheetsでデータ分析を支援する「Help Me Analyze」、Google Docsでコンテンツの高品質な音声バージョンを作成する「Audio Overviews」、時間のかかる反復タスクを自動化する「Google Workspace Flows」といった新機能が提供されます。McDonald’sやRivianなどの企業がGoogle CloudとGeminiを活用して、業務効率と顧客体験を向上させています。
マルチモーダル生成AIの進化
◦ Imagine 3: 高品質なテキストから画像への生成モデルで、より詳細で豊かなライティング、少ないノイズでクリエイティブなビジョンを高い精度で実現します。
◦ Chirp 3: わずか10秒の入力でカスタム音声を生成し、AIナレーションを既存の録音に組み込むことができます。
◦ Lyria: テキストプロンプトから30秒の音楽クリップを生成するモデルで、Google Cloudで提供されるハイパースケーラーとしては初の機能です。
◦ Veo 2: 業界をリードするビデオ生成モデルで、数分間の4Kビデオを生成します。カメラプリセット、最初と最後のショット制御、ダイナミックなインペインティング/アウトペインティングといった編集ツールで、クリエイターに前例のない創造的な制御を提供します。ラスベガスのSphereで「オズの魔法使い」を新しい世代に届けるプロジェクトにもVeo 2が活用されています。
AIエージェントの本格展開と「Agent Space」の登場
基調講演のハイライトの一つは、AIエージェントの本格的な展開と、そのための新しいプラットフォーム「Google Agent Space」の発表でした。エージェントとは、推論、計画、記憶、ツール使用能力を備え、複数のステップを先行して考え、ソフトウェアやシステムと連携してユーザーに代わってタスクを完了できるインテリジェントなシステムです。
• Vertex AI Agent BuilderとAgent Development Kit (ADK): 高度なマルチエージェントシステム構築を簡素化するオープンソースフレームワークとして、新しいAgent Development Kitが発表されました。これにより、Geminiを搭載したエージェントが複雑な多段階タスクを実行し、他のエージェントのスキルを発見して連携できるようになります。
• Google Agent Spaceの発表: 企業内のあらゆる従業員がAIエージェントを日常業務で活用できるプラットフォームです。Chromeブラウザに統合されており、従業員は組織内の情報を検索・合成し、AIエージェントと対話し、エンタープライズアプリケーションでアクションを実行できます。
◦ Notebook LM: AIを搭載したノート作成・研究エージェントで、最大50のドキュメント(2500万語)をアップロードし、AIでクエリを実行して仮想的な研究アシスタントとして活用できます。
◦ Idea Generation Agent: イノベーション、ブレインストーミング、問題解決を加速させます。
◦ Enterprise Deep Research Agent: 複雑なトピックを詳細に調査し、包括的で分かりやすいレポートを提供します。
◦ デモでは、銀行のリレーションシップマネージャーがAgent Spaceを使って顧客ポートフォリオを分析し、潜在的なリスクと機会を特定、さらにキャッシュフローエージェントを活用して将来の予測を行い、顧客へのメール作成までを自動化する様子が示されました。
◦ Salesforceとのパートナーシップも強化され、KPMG、Cohesity、Wells Fargo BankなどがAgent Spaceの活用を進めています。
業界特化型AIソリューションと顧客事例の広がりGoogle CloudのAIは、さまざまな業界で具体的なビジネスインパクトを生み出しています。
• 顧客サービスエージェント: Vertex AI Searchを活用し、あらゆる種類のマルチモーダル情報を理解し、人間のような対話でエンタープライズアプリケーションと連携します。
◦ Reddit Answers: Redditの膨大な会話データに基づき、AIが回答を生成する新しい検索製品です。
◦ Vertex AI Search for Healthcare and Retail: 医療データや製品検索をAIで強化し、医師や小売業者が迅速に情報にアクセスできるよう支援します。
◦ Verizon: AIエージェントが28,000人の担当者に顧客のニーズに関する情報を即座に提供し、問題解決を高速化しています。
◦ 次世代Customer Engagement Suite: 人間のような音声、感情理解、リアルタイムビデオストリーミングサポート、ノーコードインターフェースでのカスタムエージェント構築といった新機能が発表されました。
• データエージェント: データチームのデータ管理とビジネスチームのデータ活用を効率化します。
◦ Mattel: 数百万件の消費者フィードバックをAIで分析し、製品改善とイノベーションを推進しています。
◦ BigQueryの進化: 構造化データと非構造化データを組み合わせたマルチモーダル分析が可能になり、Oracleデータベースサービスとの統合も発表されました。
◦ データエンジニアリング、データサイエンス、データアナリストの各チーム向けに特化したAIエージェントが提供され、データライフサイクル全体をAIで支援します。
• コーディングエージェント: 開発者の生産性を劇的に向上させます。
◦ Gemini Code Assist: コードの最新化からソフトウェア開発ライフサイクル全体を支援し、カンバンボードでの対話や多数のパートナーとの統合が可能です。
• セキュリティエージェント: セキュリティアナリストの業務効率と効果を向上させます。
◦ Google Unified Security (GUS): AIを活用した脅威検出、対応、仮想レッドチーミングを組み合わせた統合セキュリティソリューションです。Chrome拡張機能からの機密データ漏洩のリアルタイム検出と自動対応のデモが披露されました。
Google Cloudのビジョン:オープンで相互運用可能なAIプラットフォーム
Thomas Kurian氏は、Google Cloudが「新しいクラウドの形」を築く上で、以下の4つの重要な方法を強調しました。
1. クラウドとアプリケーションの連携: クロスクラウド接続、フェデレーテッドID、BigQueryやAlloyDBのAmazonまたはAzureからの利用などにより、異なるクラウド環境との接続を強化します。
2. ISVとの深い統合: 主要な独立系ソフトウェアベンダー (ISV) のソリューションをGoogle AIと統合し、Google Cloud Marketplaceから容易に展開できるようにします。
3. サービスパートナーとの協業: Accenture、Capgemini、Deloitte、KPMGなどのサービスパートナーが、業界固有の深い理解に基づいた数千のエージェントを開発しています。
4. ソブリンクラウドの実現: パートナーと協力して、国際的な規制要件を満たすソブリンクラウドを提供します。Google CloudのソブリンAIサービスは、パブリッククラウド、ソブリンクラウド、分散クラウド、そしてGoogle Workspaceで利用可能です。
Google Cloudは、AIに最適化されたエンタープライズ向けプラットフォーム、オープンなマルチクラウドプラットフォーム、そして相互運用性を重視したプラットフォームを提供することで、企業がAI投資から迅速に価値を得られるよう支援していくと述べました。
Google Cloud Next ’25は、AIがもはや未来の技術ではなく、今日のビジネスと社会のあらゆる側面に深く統合され、新たな価値創造を加速させる「新しいクラウドの形」を明確に示しました。